禅寺小僧

日々の記です。

胡麻豆腐の作り方











秋になると穂が垂れて、見ているだけでもうれしいし、や
っぱり新米はおいしいと、みんな言う。夏のあいだの太陽
をいっぱい浴びたヤツが種になって、こんどの春までお休
みになるんだけれど、おやすみになりたてっていうのが瑞
々しくて寝入りばなのまどろみでいろんなことを感じるの
かもな。














やっぱり、新胡麻はおいしいぞ〜。
そら風味がちがう。
と言われて、なるほど新米が旨いなら、とうぜん新胡麻
美味しかろう。山の鳥獣戯画の話が大好きなお年寄りたち
セサミンがどうのこうので身体にいいという。でも考え
てみると、乾物屋で買う胡麻はたぶん外国産だろうし、収
穫して精製して日本に運んであちこち流通して店先に並ぶ
までにどれだけ時間がかかっているかわからんわな。新胡
麻入荷の張り紙が乾物屋の店先にひらひらしていることは
ないし、何年産のものかわからずに買っている。













おじいさんの畑で穫れた、今年の乾燥したてのをもらって
きた。胡麻は掃除がたいへんや。自分でやってな。箕ィで
やったらできるやろ。胡麻の中に胡麻の鞘の滓なんかも混
ざっていて、種に黒ごまが一粒はいってたみたいやな、と
いう黒胡麻いりのを、扇風機でゴミはだいたい飛ばす。水
洗いして、もういっぺん乾燥させて。ということだったけ
ど、時間もなかったし、省略する。大きいスプーンで中華
鍋に一杯づついれて中火で煎って、パチッと音がしたら裏
返し裏も煎れたとおもったら鍋から出して次のをいれる。
ちょっとづつ強めの火で表面を煎るわけ。スプーン一杯づ
つやって全部できたら、今度は鍋の中に全部もどして弱火
で杓文字でかきまぜながら胡麻の中心部までゆっくり火を
とおして、胡麻の美味しい深いところを表に出してくる。














それをすり鉢にいれてプチプチゴリゴリ摺っていく。
10分。
20分。
30分、ちょっと。












そこに水を入れてタプタプにしたら、布で濾して、鍋に戻
し、葛粉をまぜ溶かして火にかける。強火でいい。いつも
は乾物屋で買うのだけど、今日はいただきもの上等すぎる
のがあった。胡麻と葛粉と水の割合は、3合、2合、12
合くらいで、ちょっとお酒も入れる。ぐるぐる杓文字でか
きましつつ手を休めない。休めるわけにはいかない。いま
までの苦労が水の泡になってしまうから。胡麻の水だった
のが、葛に火がはいって透明になってくるのと、胡麻の汁
にも熱がかかってさらに胡麻の香りが漂ってくる。昔、ぐ
るぐる回すのは同じ方向にするのがコツじゃ、これが秘伝
と、言われたのでその通りにする。20分弱でもうこれ以
上、火にかけたら焦げてしまう。というところまで行き着
くから、そしたらカンに流し込んで、荒熱をとって、ラッ
プで表面を覆って、水にいれて冷やして、ほっと一息つい
て、あとは水没しないように最後まで気を抜かんようにし
とく。













中まで冷えたら、カンから外して、包丁で切って、わさび
を添えて、醤油は胡麻豆腐の上じゃなくて、皿に垂らしと
く。せっかくの胡麻の色を大事にしたいから。常温よりも
冷やしたほうが、不思議と胡麻の味と香りが強くなる。














胡麻豆腐は精進料理ならではの一品だけど、昔の人の贅沢
品だとおもう。普段食べるものではなくて、なんかの行事
の時に作っていた。修行中も胡麻豆腐を作るっていうとな
んとなくみんなウキウキしていたな。ブランデーを入れた
らいいぞという人がいて、鍋に火を入れてかき回してる最
中に、その先輩が横から入れたら、急にフニャフニャにな
って失敗したことがあった。固まらんかった胡麻豆腐ほど
みじめなもんはない。













摺った胡麻に水をいれて絞った絞り滓は、使い道がないと
捨てる人が多いようだけど、昔は雑炊にいれて食べてた。
今は木綿豆腐を一丁足して、白和えの中に入れて使って
る。もったいないんで。





















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