禅寺小僧

日々の記です。

鬼の寒念仏

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鬼の寒念仏

「鬼の寒念仏」は大津画の代表的な画題です。

 大津画は江戸時代に東海道と奈良街道の交差点あたりで売られていた、土産物の画です。山科から国道一号線を東へ進むとある追分という交差点のあたりです。宇治を経て奈良にいたる奈良街道と大津から江戸に向かう東海道のジャンクションですから、当時は行き交う旅人でにぎわっていたことでしょう。いまでいうと高速道路のSAの土産物売り場のような感じかもしれません。

 

 東の浮世絵、西の大津画と呼ばれるくらい江戸時代には多く売れていたようです。大津画は先に彩色をしてある上から墨で輪郭を入れる独特の画き方で描かれています。幾つもある画題のなかから客が注文すると、お客さんの目の前で輪郭を入れて、実演販売のようなことをしていたようです。街道に面した店先には珍しもの好きの人が集まっていたにちがいありません。丸めて荷物の中に突っ込まれた画は、旅を続けるうちに折れ曲がって皺になっているのが多く残っています。

 

 鬼が僧衣で鉦をたたいて念仏を唱え家々を回って托鉢しています。大津画は風刺画です。立派な僧衣を着ていても中身は鬼になっているのは、姿形は立派でも中身はそうではなくちぐはぐな偽善者のことを揶揄しているのかもしれません。寒い中を素足で托鉢して回ることも大切な修行ですが、外見だけではなく心の内はどのようになっているか、自分自身で点検してみることも大事なことかもしれません。