夜ライフ
山の中、暗い夜道の一人歩き、そこはもう眼よりも耳の世界で、
絶えずまわりの気配に耳をたて、おのずと精神が集中してくる。
雑念がなくなり、感覚が研ぎ澄まされてくると、町の中では、
決して味わうことのない、どこかに隠れていた、野性の感覚が
立ち昇ってくる。ここでは人間もケモノも対等の等価物になった
ような気がしてくる。
尾根筋の山の背中を歩いているときは、左右下方に視界があって
下を眺められる。ある程度、視界が利くから自分の位置も判断しやすい。
ところが谷筋をゆくときは前方と左右両側から山が迫ってくる、
水が流れてくる。取り囲まれてしまって視界がきかないうえに、
飛び掛ってくる者がいるとすれば、自分より上から攻撃してくるに
ちがいない。しかも現在位置もあやふやである。
山が迫って来る。こんなときである、暗がりにある切り株が坐っている
動物に見えたりするのは。。
道のわかるところまで出たら、ひらった枝を杖にして、
地面をこつきながら、押しながら走るような速さでゆく。
木立のあいだから、チラチラと妙法が見えた。さらにゆくと
大の上に人が集まっていて、松の薪の煙がすごい。
五山が集まって京都を取り囲んでいる。
数珠を握って、ご先祖さんの魂の帰っていかはる送り火の
朽ちてゆくのを見ていた。南無大師遍照金剛
汗かきなもんでシャツを着替えて頭陀袋に入れ、数珠もほり込む。
町に下りて、人に会いビールを飲んでいると石のハナシになった。
身につけている石?わたしゃ数珠についてる瑪瑙ですな、って渡す。
みんなのところに回っていって、コレいい匂いがする。いつもお香を
焚き染めてるんですか? って。
よう答えんかったナ。