禅寺小僧

日々の記です。

カラスの仔





朝5時前、雨が激しく降った。
流れが滝になって本堂の屋根から、白砂の上に叩きつける音を聞いている。
雨があがったから、酔って忘れ物をした友達の家に大葉をさげてゆこうと、
畑へ行くとカラスの雛が地面に落ちていた。まだ飛べないみたいで地面を歩い
たけれど、胡瓜のネットにひっかかかった。胡瓜を踏んづけんなよ、とほどいて
やるが、親のカラスが電柱のてっぺんにとまって2匹でうるさく鳴きやがる。
電柱のプラスチックの部品を叩いて威嚇しているつもりだろうか。
「私は寝てたんやけど。」
といって隣の婆さんが起きて出て来た。


子供の頃は他の人が仕掛けたカスミ網からヒヨドリなんかを外してきて、籠で
飼ったこともあった。隣のクラスの奴も捕まえたウズラを飼っていた。学校に
来る途中、フクロウの雛をひらった奴がいて、かっこよく肩の上にとまらせてみたら、
この鳥は猛禽で、爪が肩の肉に食い込んでそいつは泣きかけていた。
何匹か、バタバタ暴れる鳥を籠で飼ってみたけれど、何日もしないうちに死んでしまう。
そのうちに鳥は山にいるのが一番だということに気がついて、もう籠に入れるのは止めた。


まわりに生き物がいるのは好きだけど、ペットは飼わない。一匹犬を飼っているけれど、
ネコかわいがりしたりはしない。カラスの仔もどうせそのうちネコに捕まって食われて
しまうのだろうけど、それもかまわない。とほっておいた。


夕方帰ってきて植木の剪定屑の整理をしていると、またお婆さんが出てきて、
「まだ、そこにいるのよ。」と言った。
「助けてやってえナ。」といわれて朝はネコがそのうち持っていきよるやろ、
それも運命や、手は打さへんで。と思っていたのが、急にホトケ心がでてきて、
助けてやろうか。と気がわった。


地面にいるのを捕まえて、柿の樹にとまらせ、さらに竹の枝を沢山切って円形の巣を
つくってやり、ネコがこないように胡瓜ネットの上に設置した。
その上にカラスの仔を乗せてやると、親鳥はあいかわらずギャーギャー鳴いていたが
仔供はじっとしていた。


夜、拍子木と懐中電灯をもって夜警に廻る。
カラスは巣から落ちた仔供に餌をやるんだろうか。
童謡にカラスに七つの仔があるから〜というから七匹も雛がいたら
やらんかもしれんな。そしたらパン屑でももらってきてやるか。
巣に入れてやったらアイツもなかなかいい顔をしていたぞ。
カラスは頭がいいらしいから、お経を教えてみるのもいいかもしれんな。
ノボバギャバテェィ〜、タレロキヤ〜ってやらしたら和尚さんより
上手かったりしてな、などと思いつつ、懐中電灯をあててみると、
巣はカラッポのもぬけのカラだった。







追伸。
今朝ゴミを捨てに行くと、婆さんが出てきていうには、
あれから自分で巣を降りたんだと。道の上をチョロチョロしていたらしい。
昨日はカラスが心配で寝れなかった、と。
畑の中にいませんか?


火花が散るくらいの一瞬の儚さで通り過ぎていった。
まだ飛べない奴だったのに。





「どうして朝は助けなかった、カラスの仔を助ける気になったか?」


「竹には節あるし、松は色が変わらんわ。」