禅寺小僧

日々の記です。

骸骨の歌 岩手県上閉伊郡の昔話


むかし、上七兵衛と下七兵衛という仲のよい友達があった。二人は相談し
て他国へ手間賃とりに出かけた。下七兵衛はよく働いてうんと金をため
た。けれども上七兵衛はならず者の仲間に入って、悪いことばかりしてい
た。三年の月日がたった。下七兵衛は国に帰ることになった。上七兵衛に
「国に帰らないか」と誘うと、「帰りたいのはやまやまだけれど、きる着
物一枚ももたない」といった。そこで下七兵衛は、村を出るときには一緒
に出たのだから、一人あとに残しておいて、自分だけも帰れないので、着
物から旅費まで出してやって、ともどもに帰ることにした。


二人は連れだって帰った。ところが、国に帰る国境の峠で、上七兵衛は下
七兵衛を殺して金をとり、知らぬ顔をして村に戻った。村に帰ると上七兵
衛は、「下七兵衛は村にいるときはすっかりかわって、旅に出ると悪いこ
とばかりして、家に帰る金もなくなって戻ってこなかった」と、村の人た
ちをだましていた。


そのうちに、上七兵衛はまた博打を打って、下七兵衛からとった金はみな
つかいはたし、村にいられなくなってまた旅にでた。そこでこの前下七兵
衛を殺した峠までやってきた。するとどこかで「七兵衛、七兵衛」と呼ぶ
声がした。誰だろうと思って、後を振り返ってみても誰もいない。これは
空耳かと思って歩き出すと、また「七兵衛、七兵衛」と呼ぶ声がする。「
はて不思議なこともあるものだ」といって、よく気をつけて聞いていると
道ばたの藪のかげから聞こえてくる。


上七兵衛は不思議におもって藪かげを覗いてみると、骸骨が白い歯を剥き
だしてゲラゲラと笑っていた。七兵衛がおどろいて見ると、その骸骨が「
友だち衆、久しぶりだなあ。お前は俺を忘れたのかい。三年前にここでお
前に斬り殺されて、骨身をくだいてためた金までとられた下七兵衛だよ。
いつかお前に巡り会うときもあるだろうと、それから毎日ここで待ってい
たんだ。その願いがやっと叶って、お前の顔を見ることができた。こんな
嬉しいことはないよ」といった。


上七兵衛はおどろいてその場を逃げようとすると、骸骨は上七兵衛の裾を
骨ばかりの手でしっかりとおさえて、はなさない。
そして、骸骨は、「おまえは、これからどこへ行くんだい?」と尋ねまし
た。上七兵衛はしかたなしに「俺も村にいたが金も無くなったし、またこ
れから旅に稼ぎにでかけようと、ようやっと出てきたんだ。少しでも早く
行きたいのだ、そこを放してくれよ」と答えました。


すると骸骨は「そうか、お前も相変わらず困ったものだな。それじゃ、ど
うだ、おれはお前のために踊りをおどってやるが、おれを連れて行かない
かい。おれはただ箱の中に入れてつれてさえ行けばいいんだよ。別に何も
食うわけじゃなし、着物は着ないし、これぐらい元手のいらない金儲けは
他にあるまいぜ。お前はそういう俺の踊りはどんなものかと疑うかもしれ
ないから、ここでその型をひとつ踊ってみせよう。そうら、よく見ておれ
よ」といって、骨をカラカラふれ合わせて鳴らしながら、手を振ったり、
足をあげたりして、いろいろのしぐさの踊りをおどって見せた。そして
「これ、七兵衛、ざっとこんなもんだよ。お前が歌をうたったり、拍子を
とったりしてくれたら、どんな踊りでもおどってみせるよ。どうだい、い
い金儲けじゃないか」といった。


なるほど、これはよい金儲けができると、上七兵衛は骸骨の言うとおりに
、骸骨をもって旅にでかけた。
上七兵衛の骸骨踊りが町から村へ評判になった。殿様に聞こえた。上七兵
衛は御殿に呼ばれていった。そして、城の大広間で骸骨の踊りを踊らせる
ことになった。


ところが、どうしたことか骸骨は殿様の前では、一つも踊りをおどらな
い。上七兵衛は青くなったり赤くなったり、いろいろ唄を歌ったり、拍子
をとったり、はやしたてたりした。けれども骸骨はひとつも踊らない。上
七兵衛はますます怒って鞭で打つと、骸骨は起き上がって殿様の前にすわ
った。「殿様、わしが踊りを踊ったのも、殿様にお目にかかりたいためで
した。この男はわしを国境の峠で殺して、金をうばったものでございま
す」と、これまでのことを訴えた。


殿様は驚いて、「世の中には、不思議なこともあるものだ。この男をは
やく縄で縛って、取り調べてみよ」と言われた。上七兵衛は取り調べをう
けて、罪をすっかり白状したので、磔にされたということである。














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