禅寺小僧

日々の記です。

ふっとなるとき










ある橋のたもとにさしかかったとき、ふっと、引き吊りこまれてしまった。
念のためあらかじめ言っておくと、この記事の写真に写っている橋じゃない。
でもなんかそんな瞬間があるんだな、空白のような、ぽっかり空いたエアポケット
みたいなところへ入り込み、自分の頭の考えがなくなってしまう。怖いとも
おもわせず、引っぱりこんでしまう、そんな力が人知れずまちうけている。












琵琶湖あたりで投網をやっている人と話していたら、たくさん死んではりますで。
小僧さん、あの川やらあっちの川やらでも琵琶湖からコアユが遡上しとるんです
わ。ええ、あのへんです。川に浸かって網うってるうちに深みのほうへ引き寄
せられてしまうんです。それでアッと足をとられる。若いときだったら、踏ん張っ
たらええんですけど、できなくて胸まである長靴の中に水がドバッと入り込んで
身体がうごけなくなる。投網に手をひっぱられ奥に引き吊りこまれてゆく。
そんなときいつもだったら、なんとかして岸に戻ろうとするのが、そう思えなくて
ああ、このまま行ったら楽なんだろうな、って思うんです。
たくさん行ったはりますで。













最近はもう網打ちにいってません。
昔はひと網で30匹、50匹はいったもんで、みんなにわけに配りにいった
もんです。片栗粉つけて揚げて、ビール飲んだら最高ですわ。旨いもんです。
増えていると言うんですが、橋の上から見ても、もう獲るほどじゃないと
思って。




こんど法衣を着ているときにあの橋の向こうから、お経をあげながら橋を渡って、
たもとで手をあわせてやろう。






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