禅寺小僧

日々の記です。










子供のころに住んでいたあたりの近所。
大正か昭和のはじめに建った家。
だけど、住んでいた家ではない。
その近くではあるのだけど。
馬町の坂を上がっていって、街道を右に折れたあたり。
ぐるっと回る道がついている。
古い家具やら生活道具がたくさんあるけれど、長いあいだ空き家になって
いたというわけでもない。埃がつもっていない。
この家を誰かから譲ってもらえるらしい。
誰なんかはわからんけれど、親戚のだれかなのかもしれない。


この近所にお風呂やさんがあって、
「昔は、お風呂やさんにきた人が、勝手に上がり込んで着替えたりした
ことがある、今はそんなことないけど」っていう。
二階建ての家には見憶えのある家具がある。
古いタンスも多い。
その上に雑誌なんかが積んだままになっている。
カーテンをあけたりする。
部屋の中を見て歩き、意を決して、
「使わへんのやったら、欲しい」というと
この家具を運びだして自分の家で使うという。
「そうじゃなくて、この家においといたまま、この家を使いたいんだ」
と言った。













一階に降りた。
入り口から入った部屋に長火鉢があった。
実家にあった、大きな長火鉢で、分厚い縁がついている。父親が田舎から
もって帰ってきた。田舎で焼いていた炭を入れて、親父が鉄瓶をかけたら
ドロドロの錆のお湯になったことがあった。
その火鉢を動かそうとするので、
「おまえには、それは動かせないよ、ケヤキでできてるし重い」
っていった。自分だったらその縁を外して肩に担げるけれど、女の力では
無理だろう。
テレビのロケでもあるのか、入り口の戸の向こうに、カメラとマイクと
いっしょにビートたけしが上がってきた。
どっかこの近所で撮影するんだろう。
チラと見たけれど、それ以上見るのもアホらしく思い、
そのまま家の中にいた。







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