禅寺小僧

日々の記です。

エックスという名の歴史。

 家族は、両親と長男、長女、次男、次女のごく普通のアメリカの白人の家庭。そのごくごく普通で平穏であった家族に悲劇が訪れる。父親が銃で黒人に殺されてしまったのだ。この日から家族の様相はガラリと変わり、悲劇と崩壊の道筋を辿ってゆくのだけど、それまでは学校でも優秀だった長男が有色人種排斥の観念に囚われてしまう。ハンサムで力が強く、スポーツ、喧嘩、はお手のもの、さらに理路整然と弁が立って、統率力のある彼は、ウダウダと文句ばかりいってるようなくすぶった若い連中を巻き込み、纏め上げて、有色人種の財産を破壊したり排斥したり、有色と白色の力のぶつかり合いの中で覇権を獲得してゆく。ついに彼は狂信集団のヒーローになった。力ででも、弁ででも、彼に逆らうものはいなくなった。家族は崩壊してゆくが、その世界の中では有頂天でいられた。
           、
 さらに不幸なことが訪れる。夜中、長男の車を荒らしている二人組みの男を次男が発見し、そのうちの一人を長男は殺してしまう。そのことで長男は懲役3年をくらい、刑務所に入るのだが、それまでの狂信者集団の子分や取り巻きのいない刑務所で、仲間の囚人に犯されることをきっかけにして、プライドも優越感も何もかも失い、ただ、殺される、、という生命の危険と恐怖を感じながら過ごすことになる。結局無事に刑務所を出ることにはなるのだけど、それは刑務所内であてがわれた仕事であった洗濯係の、元コソ泥で、アタマの悪い、黒人の、ぱっとしない相棒が影で彼を守ってくれたからであったことに気がつく。そしてそれまでの数々の乱行も、家族を崩壊させてしまったのも、そのでてくる原因はすべて己の内なる”怒り”からくるものであった、ということも。
             、
 娑婆へ出てきた長男が目の当たりにしたのは、彼を尊敬していた次男が長男と全くそのまま同じように有色人種排斥の観念を抱き、運動団体に参加していることだった。長男は団体のリーダーと目されていたのだったが、脱会し、次男にも眼を覚ませといい、家族をもう一度取り戻すために一から出直そうと決意を固める。