禅寺小僧

日々の記です。

遡上行










午前中の用事をすませて、次の場所へすぐにゆけばいいのだけれど、なん
となく寄り道したかった。その昔は小さい田んぼの横をとおってなんとな
く登ってゆき、入ってはいけませんと書かれた看板の横のフェンスの破れ
目からくぐってゆけばよかった。そのころは砂防ダムの上にたまった水が
水源になっていたのだった。深さもけっこうあって、ここで泳いで、底か
ら泥があがって水が濁ると、下から人が上がってきて、あがれ!というの
だった。今は田んぼもなくなり、建物が立って昔の道はなくなって入れな
くなってしまった。なんとなく見当をつけて、尾根を登ってゆくことにした。













尾根にあがると、下界とはちがう風が吹いていて、春のセミがひかえめに
チ、チ、チともう鳴いていた。松は大きくならないけれど、誰もハサミを
入れて剪定しないのに完璧な枝ぶりに小さい松葉がついている。寺に松を
植えると芽は大きく伸びにのびて、葉も大きくなって、枝ぶりも混んでこ
んもり、奔放は奔放なのだけど、破れかぶれの無茶苦茶な成長をしてしま
う。山にあるのはあんまり大きくならないのだけど、端正なんだな。その
ままで盆栽になるほど。痩せ地に根をはった松が春になって新しい葉を出
しているのを見ると、なんだかうれしくなってしまう。これを見にきたん
だな、会いにきたんだな。



































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