禅寺小僧

日々の記です。

曇りのテラスでコーヒーを





旅に出て、観光地や名所をめぐりトレースしてゆくのが得意じゃない。
だから団体旅行は苦手で、一人か少人数でフラフラするのがいい。
オートバイであちこち訪ね歩いたころも、道端で出会ったライダー
だったり、地元の人なんかに教えてもらい、ゆくような旅だった。
いきあたりばったり。生き方じたいがそうなのかもしれないけれど。







ライダーはガソリンをエンジンに送り込み、バイクを走らす。
不思議に彼らには末端愛好、先っちょ大好きなココロがあって、
日本最北端、最東端、最南端、最西端、などのハテにゆくと必ず、
といっていいほど集まっている。なんかそんな心証があるんだな。
もうこの先に道はつづいていない、というところまで、タイヤの跡を
つけると、俺は、走った、行ってきた、とおもえるらしい。
その向こうには海がひろがっている。







一人になりたくて一人旅をしていた頃があった。
20年ぶりだとかの冷夏の年、梅雨のないはずの北海道では
毎日、毎日、雨の日が続いていた。対向車どうしが100キロずつぐらいの
スピードをだしている国道では、ダンプや大型トラックをすれ違うとき
雨のカーテンが、バンッ!とヘルメットのシールドを叩きつけ、一瞬、前が
何も、見えなくなる。ずぶ濡れになったグローブをエンジンの上にのせて、
雨空を眺め、長万部の駅の待合室で休んでいると、道内の人だったが、
同じく一人旅の年上のライダーがやってきて、
一人旅はいろんなひとと話さないとダメだよと、言った。
ひとりはもともといろんな人と話やすいけどね。







宮本常一を読んでいると、
地図をもたない旅、というコトバがでてきた。
人づてに、あるいは路傍に立っている道標をめじるしに、
道をたどる。そんな旅がしたいものだ、とガラス越しの
海を眺め、コーヒーを噛みしめる。