禅寺小僧

日々の記です。

欲望と安全神話





 






日本の原子力発電は産官学が一体となってすすめてきた、国の巨大国家プロ
ジェクトだけど、産官学だけではなくて、さらに報道・司法とも一体となっ
ている。


非常事態宣言ではなく、「ただちに健康に影響が出るものではない」という、
なんとも歯切れの悪い、何がどういうことなんかはっきりせん、まわりくど
い言い回しをテレビで事故のあと聞かされた。これまでもテレビは「核の平和
利用」をやかましく宣伝してきた。もちろん学校教育でも。未来の私たちは、
核を賢く使わなければならない。核は二酸化炭素を排出しないクリーンな
エネルギーなのだと教え込まれてきたんだ。







 






鉄腕アトムエイトマンドラえもん。子供たちが見るテレビのヒーロー、
未来からやってきた先進ロボット達の動力源は原子力だった。私たちは子供
のうちからいいことばかり聞かされて、原子力に慣らされている。


原発の安全性をめぐる裁判でも必ず原告が敗訴するしくみになっている。
これまでの原発訴訟50件以上あるで原告勝訴は2例だけで、福井県高速増殖炉
もんじゅ」の設置許可を無効とした03年の名古屋高裁金沢支部の判決と、
石川県の北陸電力志賀原発2号機の運転差し止めを求めた06年の金沢地裁判決だが、
上級審にもちこまれ、いずれも最高裁、高裁にいくと原告が逆転敗訴している。
法と司法の番人たる裁判所も安全神話の一翼をになっていたわけだけど、
今回のことは裁判所によってではなく、津波が判決をくだしたようなもんだ。


オイルマネーが砂漠に巨大都市を作り上げるのは規模がちがうけれど、原子力
おかげで原油の輸入が減ったぶん、発電所が立地している日本の地方も潤った。
もちろん消費地たる大都市も。原子力発電は生活を快適に、便利にしてくれた。
冷却水が循環できずに、お風呂でいえば、水をいれずに、カラ焚きをしたような
ものだけど、核の釜はものすごい。
事故をおこすととたんにカードが裏がえって、根本的に人間が住めない
土地にしてしまう、両刃の剣をもった悪魔なのだった。







 






そんなことは誰でもが知っている。もともと核は戦争に勝つために巨額の費用
をかけて開発した軍事技術がもとになっている。一発ですべてを吹きと飛ばし、
焼き尽くし、汚染する。これさえあれば勝てるという、恐ろしい無敵の最終兵器
が欲しいという人間の欲望が生み出した、殺し合いの中から生まれた科学技術だ。


われわれは原子力発電は安い、原子力のほうが得だ!得なほうがいい!というので
納得していたのだ。
安いほうがいい、より安いエネルギーがより沢山あるほうがより豊かな生活ができ
る。自らの欲望に騙されていたのだ。施されていた安全対策を絶対安全だと思い込み、
また思い込もうと自分自身でしていたのではなかったか。


論理、思考、科学、技術をつくし、緻密に組み立てられた原子炉圧力容器、原子炉
格納容器、原子炉建屋など、鉄壁の5重の防御を誇る現代の城郭は自然の津波一撃
で破壊された。自然は人間欲望のエネルギー生産装置を簡単に打ち壊していった。


これから、われわれはどう歩んでゆくのか。
どう生きてゆくのか。













太平洋戦争では300万人の日本人が亡くなり、都市が灰になり、人々は住む家を
失った。もちろん被害の大きさば今回の震災よりはるかに大きい。
焼け野原からの復興だったが、日本全体がそうだった。日本人全員が復興を願って
いた。


いまは被災したのが東日本だけというのが問題なんだ。他県へのガレキの受け入れ
だってちっとも進まない。


経済成長と豊かな生活のカードの裏側、戦後日本最大の危機。







震災に関する研究会に出ていたのだけど、みんなでしている議論と
関係のない妄想をしていたので。とりとめありませんけれど。
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