禅寺小僧

日々の記です。

鉄塔









シャクナゲの顔が見たくて、小雨の降る冷たい朝、尾根を登る。
登りやし上れるけど、下りやったら降りれへんやろな、と思える坂をよじ
登って尾根にたどり着くと、あちらこちらで満開の花に会える。昨日の気
温が高かったのか、木の下の濡れた地面にパラパラと、うつむいて落ちて
いる。その上のちょっと枝をしならせた先に、放射状の葉に囲まれ飾られ
る真ん中にひとかたまりの花があつまっているから、枝の先にそれぞれ花
束を持っているように見える。。その一つ一つの花弁は薄く繊細なのだけ
ど先に10個ほどかたまっているから立派にみえる。白からピンク、赤ま
でその木ごとに、微妙にちがう色が咲いている。













深山の花というイメージを何故だか持っていて、一人で彦山を旅したとき、
両側が崖のような細い細い尾根を辿ったことがあった。ガクメキ山だった
とおもう。風の吹き抜ける豊後との国境の峠から尾根にとりついたが、両
手両足でよじ登るような尾根に覆いかぶさるようにシャクナゲの群生があ
った。そのときは花の時期ではなかったけれど、尾根が細いせいで近くと
いうよりもシャクナゲの藪の中を歩くような感じだったから、さぞかし百
花繚乱になっていることと思う。彦山では人に会ったけど、あのあたりで
は全く誰にも会わなかった。ちょうど今頃は人に見られることなく咲き誇
っているのだろうな。今日歩いている尾根はわりあい広く、街にも近いか
ら同じように登っている人によく会う。どの人も可憐で豪華な野生の花に
会いたくて、街を抜け出してきたのだと思う。












地図は国土地理院の地図プリというサイトのをA3ノビにプリントして、
折り畳んでシルバのコンパスと一緒に持ってきた。後輩が今はGPSです
よ、という。スマホで電子化した地図データをダウンロードしといたら完
璧です、と言っているうちに、あ、電波ひろえました、と言った。凄いと
思うけど、スマホは持ってないからなあ。けど今でも紙の地図と磁石のア
ナログセットもけっこう行けるんでっせ、と言っておいた。昔の地形図に
のっていて、いまは載っていないものに送電線がある。昔は送電線の記載
があって、地図上で送電線が曲がっているところがあったら、鉄塔が立っ
ているということだから、自分の現在位置を求めるのにいい目標になった
。木立のあいだから送電線が見えるから、地図に書いてあったらいい目印
になるんだけど。そのうち少し平らになって、林が切り開かれている場所
に出た。














鉄塔がそそり立っていた。その真下を歩いて越えてゆく。この先には日本
海があるんやろなあ。原子力発電所と繋がっている。あなたの京都の家の
部屋のコンセントと福井県にある原子力発電所は電線で繋がっていて、こ
の巨大な鉄塔に張られてた超高圧線を通って山を越えてきたのだった。原
発が停止した今、もう電気は通っていないのだろうか。鉄塔が好きだ。芸
術でも美術でもなんでもないけれど、美しいとさえ思う。いちど京都から
三重に入るとき、月ヶ瀬から島ヶ原の峠を走っていると、役目を終えて、
電線をはずされた鉄塔が田ん圃の中に、ポツンと錆びて立っていた。屹立
していた。電線を外されてもう用をなさない、裸のままの鉄塔が美しかっ
た。












もうこの鉄塔が支えている巨大な電線はかつてのように大量の電気を都市
に送っていないだろう。もしかしたら電気流れてないかもな。でももしか
したら、今はこっちで作った電気を日本海側に送っているのかも知れない
な。原発が稼働していない今、もしかしたら福井に住んでいる人達の使う
電気は足りなくなっているのじゃないかなと思って、もの言わぬ鉄塔を見
上げた。今までとは逆方向に電気送ってくれてるんか?それとも今は休ん
でるんか?













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