禅寺小僧

日々の記です。

十六羅漢








羅漢さんっていうのはもうお悟りをひらいておられる偉い方で、
お釈迦さんが亡くなられるときに、次に弥勒菩薩がお出ましになる
56億7000万年後までにお釈迦さんの教えが無くなってはいけ
ないので、それまで仏教を守るためにいてくださるらしい。
そういう意味ではお地蔵さんとおなじような人たちなんだな。
仏教の四方八方十六方を守っておられる。












図書館に円山派下絵集というのがあるのを借りてきた。
円山派というだけで無名の絵描きさんらの残した下絵で、その中でも
ちょっと異色なザッと描いてあるヤツで、完成品の絵はどこに行った
のでしょうか。ほかのキッチリした仏画の下絵とまったくちがった作風
なんだけど、この本を作った人もやっぱりこの下絵を本に入れたかったん
だろうな。最後のほうのモノクロページに彩色もなく載せてある。











近所の和尚さん(この方は文化も芸術もわかる)に、
「おい、あんた最近なにしとるのや?」
「はあ、十六羅漢かいてますよ」
「細密画を描かかなあかん、そうしな値打ちないがな」
「・・・・」
何も言ってないのにどうして細密画でないことがわかるのでしょうか。













「彩色?ああそのへんのアクリル絵具でも塗っときますよ」
っていうと、美術学校の先生は
「小僧さん、ダメですよ。ちゃんと日本画の絵の具塗らないとだめですよ」
日本画の絵の具がものすごく高いってそれくらい知ってますよ、無理ですね」
日本画の絵の具は少しでものびるんです、自分で膠煮いてできるでしょう」
って言われて二条まで絵の具買いに行った。
岩絵の具は買えずに水干絵の具(泥絵の具)を買うてきた。
膠は束になったのが寺のどこかにあったのだけど、絵を描こうとおもったら、
どこにやったのやら、発見できず。
近所の画材屋さんにいったら、リキッドになった薄めて使う膠がおいてあった
から、手を抜いてこれを買った。
さらに先生は
「裏打ちくらい自分でしてください。霧を吹いたらピシッとなるんです」
おっしゃっておられたが。。













羅漢さんってのは悟りの智慧をえておられるのだけど、まだ修行をつづけておら
れるようなふうがあって、しかものびのびとしておられる。日本の追いつめらるような
キビシさが目立つ修行とちょっとちがって、どこかゆたっりした空気がある。
龍をてなづけ、虎を撫で、鬼を子分にしたりなかなか勇ましい。
羅漢さんは河をわたったり、雨を降らせたりされるので夏向きだな。
観音さんもお一人では寂しいだろうし。













灯篭盆っていうのだけど、7月中頃の夕方、本堂前でお経をあげて、供養に
浄水とお米をお供えしてお参りする。そのときそれぞれ灯篭をつくって灯をともす。
その灯篭づくりの代わりに描いてみた。16枚って結構おおいから完成するのかな
とも思ったんだけど、あんがいあっさりできてしまった。
けれど、もとの下絵にあった枯れた感じ、厳しさ、などはなくなって漫画かイラスト
になってしまった。アーティストと絵描きと職人はそれぞれ別なの、とアーティストの方が
いっていたな。にぎやかしの素人画ですかね。














絵を描けとすすめてくださった和尚さんがおられた。
苦労人の、だけど出てこられると、ぱあーつと会場が明るくなる不思議な方
だった。お説教の先生で、若い人の話でも、いいですねぇ、と下の者を育てて
下さる方だったのだけど、ほんとに急に亡くなってしまわれた。
「お世話になったんで供養にと思って描いたんですよ」
お弟子さんにいうと
「ああ、頭の禿げかたなんかが似てますねえ、猫大好きだったし」
といった。
「猫ですか」














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