禅寺小僧

日々の記です。

弟を供養して、痛めていた膝が治ってしまう話











まあせっかくだから、お茶でも飲んできなさいな。お菓子もあるし遠慮せ
んと。っていうとお婆さんに最中をお出しする。結構それおいしいでし
ょ虎やの最中、っていうと、最中がいちばん好きなのだという。京都の最中
も上品で。口数は少ないけれど、もの腰の落ち着いた、顔に清らかさと透明
感がある。そんな老婆に聞いた話。


夢の中に弟が出てきた。本当の姉弟の弟ではないのだけれど、
嫁入り先の家にいた人で、初めて会ったときは小学生だった。なんとなく
その子がなついてきたので、年のはなれた弟のように生活してきたのだそうだ。
は成人してからは、生まれた家でお兄さんを助けて仕事をしていたけれ
ど、後年、身体障碍者になって仕事ができなくなってしまわた。
まわりのみんなで助けあってなんとかしていたのだけど、そのうち病気に
もなられ、やがて亡くなられたのだという。












お婆さんの夢枕。真っ暗な中に弟が立っている。
「久しぶりじゃない。どうしてたの?」
顔はニコニコしていて、穏やかに笑っているが、口を開いて何か答える気
配はない。ただ、笑ってそこにいる。元気にしてたの?帰ってきたの?と
尋ねても笑っているだけ。
手を見ると、両手に茶碗を持っている。
「ご飯が欲しいの?」
弟は黙って頷いた。
そうか、ご飯が食べれなくてお腹が減っていたのか。知らんかった。気が
ついてあげれなくて、ごめんね。こんどからちゃんと、ご飯上げるね。
弟はまだ黙って立っている。なんだろうと思い、ふと、
「味噌汁?」
と聞くと、うれしそうに頷いて、弟はどこかに消えた。












それからというもの、お婆さんは、
「今までごめんね、あなたにって、言ってご飯をお供えしてなかったね」
といって弟の分もご飯と味噌汁をお供えすることにした。これまでも仏壇に
ご飯をお供えしていたけれど、誰にお供えするとは言ってなかった。
今は田舎を出てきているから、田舎の方角にむいてご飯をささげて、それから
仏壇にお供えする。


お婆さんが自分の妹さんと電話してしていて、話が弟のことになった。
この間、夢枕で、お腹がへってご飯が食べたいっていうから、それから
毎日、ご飯をお供えしているのと、話していると、急に自分の身体が意志
とは関係なく動きはじめた。ソファーに座って片手で電話を持って話して
たのが、もの凄い力で、脚が伸びて前に投げ出すような格好になった。
背中もまっすぐになり、身体が一直線になり、背骨がゴリゴリ動き出した。
自分の力とは関係なく動いていって、止めることができない。うわああ、
いったいどうなってるの?身体が勝手に動きまわったあげく、ゴキッ、と
もの凄く響きわたる大きな音がして、右膝の間接が入った。
それからというもの、悪かった右膝が嘘のように治ってしまった。まえは
もう歩けなくなるのか、とおもっていたけれど、今はお寺まで一時間歩い
てきても全然大丈夫になった。正座しても大丈夫に戻った。膝が治ったと
きに、弟の姿はなかったけれど、私は弟が治してくれたと思っとるんで
す。電話で弟の話をしているときに、ですからね。私の身体が勝手に動い
て治ってゆくとき、私の妹は私がトイレに行ったんやと思ったそうです。
そのあいだ向こうの電話では、ジャー、ジャー、ジャーってずっと水の流
れる音がしてたから、こらお姉ちゃんトイレに行ったんやな、と思ってた
そうです。こっちではそんな水の流れる音はしなかった。でも妹の電話で
は、膝の骨が入るときのゴキッっていう大きな音は聞こえなかったそうで
す。見えないけれど、弟が来て、私を助けてくれたんです。











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