禅寺小僧

日々の記です。

花のいそぎ










寒中、猿の中で茶会したとき、何段も川を上っていった。
あたりの水しぶきが凍ったダムの上は笹でおおわれていて、大水でなぎ倒されて
いる。谷に山桜の倒木が横たわっていて、花芽があるぞ、と持って帰った友人が
届けてくれた。暖かい陽射しの部屋に入れておいたら開花した一番いい枝を持って
きてくださった。何某の詩に、花のいそぎ、というのがあるらしい。











夏、知り合いの陶芸家のところに遊びにいった。
陶芸好きの友人を連れていって、少しひねってもらったついでに自分も作ったの
だけど、陶器なんか作ったこともないし、出来るはずもない。子供のころ陶器の町に
すんでいたけど、陶器は複雑で難しいという印象しかない。どうせ役に立つもんは
できひんやろうから、役にたたんもんを作ることにした。











蜘蛛の糸、人間群像みたいなのができてしまった。
本当はもう少し背が高くて、カンダタがいて、下の奴らを追い払ってるのだけど、
土を乾燥して、窯に入れて焼く途中で転落してしまったのだという。











しかしあの短い時間でよく作ったな、と陶芸家先生は言った。
なんとなく人間の臭いが似ているなと感じるその人は、スキー場で住み込み
バイトしていた人で、好きな陶芸を仕事にしたのだから、家の仕事をついだ
んではなく自分でいちから積み上げてきた。こつこつ、好きなことを仕事に
してきた。(お金にはならないだろうし、子供の教育費や生活費は別の仕事
をされていただろうけど。)都会の人にはない、野生のおおらかさみたいな
のを持っておられて、好きなんだな。












プロが仕事で焼いてる窯の中に入れてもらったのだけど、イヤやろなあ、
こんなん入れるの、って思う。窯は神聖なもんやろうしね。
上は赤で、下は緑の釉薬にしてください。上は還元で下は酸化とかいう
ふうにグラデーションになったら最高ですね。とか気楽に注文していたけど
釉薬は松の灰釉なんだそうだ。もったいないくらい、ありがたい。
井戸の横の部屋の本棚の上においてあります。












こんどは蜘蛛の糸の紙芝居作ろうかな、と想像していると、急に花瓶のイメージが
浮かんだ。陶土を板状にして、四枚か五枚張り合わせて作る。底が広くて上にいくと
ちょっとせばまる。その花入れには上のほうには四角の穴があって、下はかぎ裂きの
ように外に向かってめくれあがっている。迫力のあるやつ。それでは水が漏って使い
もんにならんやんかと思うけど、そんなん作ってみたい。素人の考えで。
もし技術があったら、普通の四合瓶の形で五合はたっぷり入る大徳利を作ってみたい。
もちろん技術ないけど。
こんなものは、どっちもただの空想のまま終わるのだけど、自分の夢を実現して、
子供さんも成人されているこの人は凄いな、もちろん大変なことが多かったろうけれど。












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