禅寺小僧

日々の記です。

黄泉の比良坂












でもないのだけど、比良山に足をのばしてきた。
いつもは下から見ているだけの、標高1100メートル地点に立ってみる。
曇天、マイナス6℃、稜線上は強風の北風が吹き付けてブチあたって
きやがる。立ってられない程ではなし。下からえっちらおっちら登って
いくと、上は別世界が広がっていて烈風が叩きつけ、岩陰にかくれたり、
立ってられないから四つん這いになったり、となさけないことがある
から。京都から車で一時間、山麓からゴンドラに乗って上がってきま
した。文明の力にたよりきって、情けない、と言われそうなんだけど、
雪がいっぱいあって、ウキウキしてくるぞ。比良の東側の急斜面を巨大
な、たぶんスイス製のゴンドラがグングン進んでゆく。眼下には葉っぱを
落とした雑木が雪の斜面の中に延々とつづき、その中で緑の葉をたくわえ
ているのが、松の樹で、てっぺんに雪のカタマリを載せていたりする。
無言で、冬の風景はそこにある。


ゴンドラに中では、鉄塔の下の草地に、あっ、鹿がいる。どこどこ?
うわぁ、いっぱいいる。え〜、どこどこ?あそこやん。うわホンマや。
うわ〜、わからんかった。と叫び声があがり、ボード、スキー、ソリを
もってみんな立っている。山頂駅に着くと、どやどやゲレンデに向かって
突進していった一団の後で、同い年くらいの登山の男の人がひとりいて、
デイパックを背負い、メーカーもんのダークグリーンのアウターを着て
おられた。出口で一人残って、真新しい金属製のワカンを登山靴に付け
ておられる横顔がなんとなくうれしそうな感じだった。どこまで行かれる
のだろう。文明の利器を利用しつつゲレンデの一団を離れて、一日を楽し
まれるのでしょう。


琵琶湖の全体が広がっていた。膳所や湖南アルプスから秘話湖大橋、
近江八幡長命寺あたりの対岸と沖の島のあいだは火口じゃないけど丸く
へこんでいるみたいに見える。真っ白い伊吹山、賤ヶ岳あたりの北湖
の端のはしまで見えて、感心して見ている。なかなかこんな場所ないの
じゃないかなあ。


いつもは見上げている比叡山が下に見える。比叡山は848メートルだから
ここよりも低いのだ。妙にうれしい。なんでなんかな。いっつも比叡山
から見下ろされてるのを上から見ているからなんだろうか。
なんでなんだろうな。












あの向こうに京都の街がある。







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