禅寺小僧

日々の記です。

落椿





美しい娘がいた。
殿様に見初められて、城にゆき、側室として
寵愛をうけることになる。
ところが病いになって寝込み、里にかえされたところ、
殿の心は離れていった。
悲しみか、恨みか、娘が川の淵に身を投げるとその姿は
大蛇になり、殿の行列を襲う。
護衛の侍に真っ二つに切り捨てられ、その尻尾がこの森に
埋められたという。







椿の花にはどこか後ろめたいところがあって、
その森は暗い。
桜のように枝一杯に太陽を浴びて生を謳歌し、
通りがかりの人に、「見て見て、」とはしゃがない。
黙って薄暗い森に真紅の花弁を落とす。
潔く風に散って舞うこともなく、
そのままの姿で落ち、肉厚の花弁は土の上でも
生き続け、何かを残し、やがては土に、還る。


若くして散った人に。