禅寺小僧

日々の記です。

死にともない3





桜の花が開いて、みんなが集まって花見をしている画のよこに
画賛がしてあって、


  楽しみハ 花の下より 鼻の下 


とななんとも洒脱なものだけど、ことさらに頭を絞って考えた
というより、心のどこかからポッカリ出てきたような風情がある。
名僧としてなり響き、多くの弟子、居士、藩主黒田公から市井の町民
婆さん、洟垂れ小僧にいたるまで、仙突さんのファンは多かった。


素麺屋の富田久右衛門は義侠心にとんだ男であったが、家業にも熱心
で真面目で親切な男だった。質素で恰好にあまりかまわないところが
あり、今日も粉だらけの仕事着を着たまま湯気の立っている出来立ての
牡丹餅をもって和尚を尋ねて来た。
「和尚さんはおいででございますか。」
「これはこれは素久さん、どんな用事じゃの?」
「あったかいうち、作りたてと、思いまして出来立てのぼたもちを
もってきました。」
「そうか、ちょっと、待ってくだされ。」
と言うと奥へ下って行った。暫くして戻ってくると、和尚はきっちり
法衣をまとって威儀を正し、うやうやしく牡丹餅を受け取った。
「和尚さんそんなに丁重にされては、なんか困ります。」
「そうではないぞ素久さん。お前さんが商売道具の仕事着を着ている
のに、わしが商売道具の法衣を着ずにすむものかいの??」


と言ったとか。