禅寺小僧

日々の記です。

ウグイス張り廊下

アジア

御寺の本堂の廊下を歩くと、きゅっきゅっと小さい音がする。
古くなって、傷んでギシギシ音をたてているのもあるけれど
板のウラに仕掛けがあって、最初から音がするように設計されてる。
ウグイス張り、という。ホーホケキョとは鳴かないけれど、チ、チ。
とかジュ、ジュといってるんだろうか。いいネーミングだと思う。

観光で二条城へいってもウグイス張りの廊下があるそうで、説明では
「泥棒よけです。とか、忍者がこないようにです。」といっているらしい。
で、「御寺にも忍者が来るんですか?」と質問をうけるんだけど、
甲賀、伊賀ともあんましお見えやないです。」と答える。

漢詩に、風定まって花なお落つ。鳥啼いて山更に幽なり。
(風定花猶落 鳥啼山更幽)とあるけれど、
静かな山にいて、鳥が啼いた。山は更に静かになった、
ところの味わいを昔の人は大切にしたのだろうな。
今は音そのものが大切だから、床の音は泥棒よけになってしまう。
西洋の鐘はカンカンと胸なかに響き渡る音色だけど、
日本の鐘はゴーンと鳴って残響を残しながら次第に静寂の中に溶けてゆく。
余韻を残しながら。やがて無音になってゆくところを聴いている。
自分の内面からの音だってそうだ。心の中が静かになればそれだけで
幸せを感じるのは昔のひとだけではあるまい。

御寺では法要のとき主役の和尚さんがキュッキュッと小さい音をたてながら
廊下を歩いておいでになって、本堂に入られると音が止む。
シンとして、それから、お経が始まる。
二条城だって、将軍様が来られるときに家来が低頭していると、ウグイスの鳴く
音がして、やってこられる。庭にいるウグイスも姿は見えないけれど、どこからか
鳴いている。ウグイス張りっていうネーミングも洒落てて、いいじゃないか。