禅寺小僧

日々の記です。

さばいばる

夏、男ばかりで6人だった。
渡り鳥はそうだしな、
食料なんかの装備を持たないで、旅をしよう。
と誰かが言い出して、日本海に面した、人家のない岬に
行ったことがある。
成生岬とかいうところ。国土地理院の地図をみると、
岬の突端に灯台がある。村までは車やバイクで行って、
そこから道のあるところまでいって、歩いた。
地図ではこの先にわずかながら田んぼもあるようなので
書いてはいないけれど、細い道が通っているはずである。
最初は山道の中を進む。ところがしばらく行くと
道が無くなってしまった。
石垣を組んだモト田んぼらしきところもあったけれども
おそらくは減反でもう作らなくなちゃったんだろう。
放置されていた。もちろんこの先の田んぼももう作っていない。
当然道は使用されないから無くなってしまう。
人の営みがなくなってしまえば、
あっという間に自然の中にのみこまれてしまう。
昼過ぎの薮だらけのなかを苦労して進む。
汗は流れるけれど、水は持ってきてない。
結局、喉がカラカラの状態で一夜をごろ寝することになった。
もちろん、やぶ蚊の猛襲にあってみんな一睡もできない。
汗がべとべとだからいくらでも寄ってくるんだろう。
ブスッツと刺されると、痛い。
幸い俺は明け方に少し眠れた。

 次の日、俺ともう一人が水を探しに行こうということになって、
山の中から谷を目指して降りていった。
雨のときだけ水がながれるんだろうか、地形は谷でも水はない。
崖のようになったところを降りていくと、海に落ちる直前で
岩の上を水がチョロチョロ伝わっていた。
なんともありがたい。
掬うものがないからほとんど顔を岩にひっつけて水を飲む。
いくら飲んでも飲み足りない。
ようやく、フラフラと立ち上がって上のヤツを呼びにいく。
こうして全員海まで降りてきた。
次は食料調達をしなくてはいけない。
小さい貝は沢山採れた。それを割って中身を釣り針につけると
小さい魚もけっこう釣れた。
焚き火をたいて取れた食料を煮たり、焼いたりして食べる。
なかなかオツなもんだったな。

 その次の日ぐらいもそんな感じだったけど、
三日目ぐらいから、様相が変わりだす。
いくら若いといっても、夏のカンカン照りの暑い中、
照らされているとやっぱり体力を消耗するのか、
食料が足りないのか、日が昇っても食料を探しに行かなくなった。
相変わらず探しにいってるのは俺と沖縄出身の男だけで、
ほかの4人は昼寝を決め込むようになってしまった。
そして、二人でいろいろ取ってきて、
「おーい、メシができたぞー」
と叫ぶとのそっと起き上がってきて、
むしゃむしゃ、バリバリ食い始めた
そして、俺の眼にはそいつらの表情に
「遠慮」というものはみあたらなかった。
「当然」という顔で食っている。
俺はあきれた。今まで寝てたんだから、
ちょっとは遠慮してアタリまえだろ!
しかし、その状況では、
案外これが人間の当たり前の行動なのかも知れない。
けどね。

 そんな感じが三日ほど続いたけれど、
そんな中でもタバコを吸ってた奴らは
その辺の葉っぱを丸めて吸いだした、のが面白かった。
文句言いながらすってたな。
人間の本性が見れて面白い旅立った。
今だから言えるけど。
最後、車の場所まで戻るとき、正直体力的に心配だった。
なんとかもと来た道まで戻って、山の景色を仰いだとき、
なんとも幸せだった。どおってことない雑木林のふうけいだったけど。
みているだけでホッと何かがこみあげてきた。
 
 炭水化物が食べたい。と思った。


せ。