禅寺小僧

日々の記です。

番傘

雨あがり

用事で出かけてて帰りに傘屋さんによった。
番傘が欲しくって、ちょっと前から近くに行ったら
ついでに寄ろうと思ってたから。
和傘は竹の骨に和紙を貼って、油が塗ってある。
紙と竹だから雨に濡れるとひろげて乾しておかないと
カビが生えてしまう。もしくは次に使う時に紙どうしが
引っ付いてしまうから、どっか広いとこでひろげとかんとな。
面倒といえば面倒なヤツなんだけど、
さしてみると結構大きくて便利だし、なんとなくノンビリしてる
感じも好きだしな。あと、お参りに行くときなんかその辺の
手近にあるのを掴んでいくと、
「柄付きでハデやねえ。」
とか、先輩方にいわれてしまうので。
マ、番傘が無難かと。それに、
夜目、遠目、傘のウチ。とかいうのも
和傘でしょうに。コウモリ傘ではなさそうだしな。

で、提灯と傘を売ってる店に付いて
「番傘みせてください。」というと、
何種類かあって、よさそうなのが
1500円のと1マン円のだった。
どうちがうのか聞いてみると、
中国製と日本製の差であるとのことだった。
俺の田舎では昔は冬に炭を焼いていたそうだが、
売れなくなったので、炭の樹で今度はシイタケを
何万本だか栽培してた。ところが今は中国産の時代になってしまって
勤労意欲がどっと低下した、ということを聞いていたから
できることなら、日本の職人さんを応援したい、
とおもった。

俺がいったのは傘屋さんだったけど、
字を書いたり、紋を入れたり、色を塗ったりと、
最後の仕上げの作業をする職人さんなんだそうだ。
傘作りの工程は10ほどあって、それぞれに専門の職人さんが
いるらしい。時代劇なんかででてくるのは傘貼りの職人ばかりだけど。
それで今は老職人が年金をもらいながら作っているから
一万円だけど、ほんとう言うと2万円ぐらいでないと
若い職人さんらが育っていけない、という話だった。

和傘にもいろいろあって、蛇の目傘というのは
その名のとうり傘を広げたデザインが蛇の目紋になっているんだけど、
全体に華奢に作ってあって、女の人なんかが正装した時にさす傘だ。
特に色町の芸妓さん、舞妓さんらが使うもんだそうだ。
野点の茶会なんかでつかうのは大傘という。
番傘の「番」というのは「普段使いの」「粗末な」というぐらいの意味で
番茶というのがそうだわな。
ご主人が学校にいってたころはみんな番傘をさして来てて、
洋傘のひとはクラスに一人ぐらいのものだったとか。
実用品だから雨の中を1時間 、2時間歩いても大丈夫なように作ってある
んだ、と教えてもらった。

最近は御客の層も変わってきて、いきなり、
「直径28センチの提灯はナンボしますか?」とか言ってくる人がいて
ビックリするらしい。
「何に使うんですか?」といっても黙ってるらしい。
値段はそれぞれの用途に応じて300円から3万円まであるらしいが、
用途というより値段で買っていかはるらしい。
直径28センチなんていうのはインターネットからの知識らしいのだけど、
恐らく飾りとして買っていかれるんだろうな。というはなしだった。
ちなみに折りたためるのを提灯と言って、
折りたためない灯かりのことは、行灯という。
今日始めて知った。

最近は伝統工芸士の表彰が盛んなんだそうだけど
「メダルをもらえるのとメシを食っていくのはまた別だしなあ。」
という。
儀式用のは別として、実用品としての物の場合、
実際に使われる、という素地がなくなってしまうと、
本来的な意味での伝統は失われてしまう。
工芸は残るかもしれないけれど。
傘なんてものは、ただの生活の中の消耗品だ。
「何で傘が丸いか知ってるか?」と聞かれる。
なんでだろうー、と考えてたら
竹を一本のまま、そのまま割って作ってあるからだ。という。
だから元の竹の円がでているんで節の場所も合っているし
骨を交換することもできないらしい。
さらには紙の張替えもきかないらしい。
消耗品なんだから。

番傘を一本だけ貰って帰った。

せ。