禅寺小僧

日々の記です。

きこりとさとり









昔むかし
飛騨や美濃というから
いまの岐阜県あたりの山奥に
「さとり」という妖怪がおったそうな


さとりは人の心を読む妖怪で
黙っていても
心のなかで何を
考えたか思ったか
全部お見通しなんだ。


恐ろしい奴じゃ


山奥でたまたま
出くわしたりすると
さとりは人の心を読んでは
先回りして
話しかけてくるという。












一人のきこりが
斧で木を伐ろうと
山深くへ入ったら、













さとりという妖怪が姿をあらわした


きこりが生け捕りにしよう
と、思うと


さとりは
すぐにその心を読み取った












「生け捕りにしよう、っていうのかね、ケーッ、ケッ、ケッケッ」
きこりがびっくりすると


「心を読まれて、びっくりするとは
お粗末な話だ、ケッケッケッ」
きこりはますます驚いて












「ええぃ、小癪なヤツ
斧で一撃、
殺してしまおう」
と考えた。


するとさとりは


「こんどは殺そうってか、
いやあ、おっかない、こりゃ、おっかない」
とからかう。


さとりはきこりにしゃべりつづける。


気にしないでおこう、
忘れてしまおうと思っても
そう思えば思うほど、かえって
忘れられないし、
気になってくる。











「こりゃーかなわん、
こんな奴を相手にしてても仕方がない
こんなヤツにかまわないで
もとの仕事を続けよう」
きこりは思った。


「俺を捕まえるのを、あきらめたか、
かわいそうに、あきらめたか」











元気を取り戻したきこりは
また木を伐りはじめた。


木の根元に、力いっぱい、
斧を打ち下ろす。
カーン、カーン、カーン、


力いっぱい、
打ち下ろしつづける。
カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、


力いっぱい、


額から、玉の汗が、流れる


きこりは全くの無心になった










すると!
たまたま!
全く偶然に!


斧の頭が柄から抜けて、飛んだ。


危ない!!!!












ドッカーン!!


さとりに、モロに命中!!


思いがけなく、
さとりを生け捕りに
できました、とさ。













きこりの心を読みとって、
さんざんからかいつづけた妖怪も
無心の心は読みとれなんだ。


めでたし


めでたし







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