禅寺小僧

日々の記です。

ヘアピン


藤、牡丹、百合、つつじ、あやめ、てっせん、などなど、
もう考えられるかぎりの、春ってこんなに花が咲いているんだ、
とあらためて気がつかされ、赤、青、黄、紫、白の色がそれぞれの
作者の声となりあかるく、溌剌で、にぎやかだった。


相国寺にゆくと大きな美術館が建設されていて、寺ゆかりの
伊藤若冲の絵が展示されていた。墨絵には遊びが感じられ、
障壁画も見事なものだった。彩色のものは異様な雰囲気を漂わす
細密画であって、さっき見ていた生け花はやっぱりナマだったんだ、
と思う。こちらは伊藤さんの眼をくぐった、動植物。






用があって、京都の北の岩倉にゆく。国際会議場にゆく道すがらで
市内唯一のヘアピンカーブが、ちょっと前まで、あった。
何かちょっとありそうな狐坂という名だった。
今は上のトンネルを目指して、高架の上を駆け上がってゆく。
空は晴れわたっていて、うぶで新鮮な新緑にとりかこまれている。
昔のペアピンのあたりにおおきなアカシアの樹があって、白い、
藤の花を枝いっぱいに枝垂れてぶら下げているのが見える。
春の風が葉っぱという葉、枝という枝、山ぜんたいをゆらし、ひるがえる。
ちょっと白い、葉っぱの裏側がいっせいに、風をはらんでめくれあがる。
ああ、この感じだな。
雑木の新緑とアカシアの花ぐらいしかないけれど、アウトドアの
まっただなかで、吹かれている、この感じがすきなんだ。
わざわざ絵に描いた風景を部屋の中でみていても、
額縁にはまらない絵にはかなわない。