桜人
季節が緩んできて、つぼみがほころぶと、風景との距離がちぢまりけれど、
人の距離も近づくんではないか?
国道を走ってたら、川へだてて向こうに立派な茅葺にトタンを被せた風格ある
本堂が見えた。桜も立派そうなんで道を降りて橋を渡った。
新しい立派な本堂もあるけれど、わざわざ旧本堂も残されているのだった。
登りでは気がつかなかったけど、降りてきたら下の向かいの家の広場で集まって
宴会している。
「こんにちは、お花見ですか?」
「そうやな、国道から見ててきれいやったしこっちきたんか?」
なんてことから、こっちに坐れ、冷たいの、冷えたの飲め、ちょっと取ったって。
ブルーシートの上の、のどごし生をもらえるのかと思ったら、缶コーヒーがでてきた。
話題は、定額給付金、脚膝の痛み、ブロック注射などなど。
いろいろ、ご縁があることがわかり、去り際にはみんなして手を振ってくれた。
なんでも今日の11時に花見することが決まって集まったそうで、天気とかも
いろいろあるしね。でもこの花見に来てる人は今年は大丈夫なんだ、とか教えてもらう。
小学校の横の墓場の入口に大きな樹があった。
すぐにブレーキをかけて道から離れる。
樹を見上げて写真撮ってたらおばさんがやってきた。
「いい樹ですねえ。」
「最近は弱りました。」
見れば枯れ枝を切った後も多い。
お墓のごみを樹下で燃やすのと、学校の送り迎えの車のせいなんだそうだ。
おばさんは樹のとなりで畑をしているけれど、樹の近くは水仙とかの花を
植えていて、決して樹の近くを掘り返したりしない。
「あんたはなんでも知ってるねえ。」
「いろんなところを旅してきましたから。
たまたま眼に入ったんで止まったんですよ。というと
「風流なひとだねえ。」
と言われた。
「あんたほど桜のすきな人ならあの樹を見て行ったらいい。」
その樹にゆく道を教えてもらった。