禅寺小僧

日々の記です。

ひねもすの旅


スグにできそうでいて、今だにかなわない、小さな夢があって、
夕陽があたる防波堤の上に座り込んで、雑魚を釣りつつ、
干物をあぶりつつ、燗酒を飲んでみたい。
広く、あたっかい春の海で、
朝日でなくて、夕陽がよくて、
大きい魚でなくて、雑魚がいい。
というもの。


もう一つは、キラキラ輝く昼間の瀬戸内海をゆっくり旅したい。船で。
ところが大阪、神戸からの長距離フェリーに昼間のは無くなってしまい、
夜行便ばかりで、夜もすがらの旅はできても、ひねもすの旅はできなく
なってしまった。
ポンポン船のゆく海を行きたいのだけど、かなわないな。









島に向う船で、菜の花色の黄色いセーターを着た
女の子と知り合いになった。
これから行く島の高校には、普通科のほかに中国語と考古学を選択
できる課があって、彼女は中国語科の生徒で明日から始業式なので
今から島に戻るところで、島の家庭でホームステイして高校に通う
離島留学生なのだ、という。こんど新二年生になる。







「私、将来、したいことがあるんです。」
と話す彼女は、初対面でも、物怖じするわけでもなく、
行儀良く、しっかり自己紹介し、
「よろしく御願いシマス。」と言う。
彼女に対していると、こちらの方が遥かに、永い時間を生き抜いてきたのに、
何故だか、その言葉にひきよせられる。


「私、手紙を書くのが好きなんです。一日に一通も、二通も。
手で書いた文字って、メールじゃ伝わらないことでも
通じるって思いませんか?」
なんていう。
「ヒドイ言葉を使う人がいて、他人を傷つけるから、
みんなが、優しい言葉を使うようになるようにしたい。」
などと。どこでそんなしっかりした考えを身につけたんだろう。
クルクルと活発に動きまわる表情と、黒目がちの瞳を見て思う。


下船のとき、ポケットから2,400円の切符の半券を取り出したら、
「私のは、学割なんですよ。」
と、2割引の切符を見せる。
とうとう2時間、元気で小柄な女の子と喋り通しやった。